8月30日(木)

第13回 夜明け前 "Before the Dawn”

 

現在、8月31日午前4時。

夜明け前に寝苦しくて起き出した。外はまだ暗く蒸し暑いが、もう秋のような虫の声も聞こえて来る。ここ最近同じような嫌な夢を見て起きることが多い。夢の中の世界は時に甘く、時に苦しい。現実に戻ってほっとすることもある。

 

“いよいよ”、というべきか、”とうとう”、というべきか。

明日、NEW ALBUM “SUNSHINE” レコ発ワンマンライブを迎える。

製品になったCDも無事に届き、人事は尽くした、あとは天命を待つのみ。と言いたいところだが、細かいレーベル業務は後から後から湧いて来る。社長と代表と平社員を兼ねているようで、事実、なかなか忙しいのである。

さて、最後の試聴フィルは、”Before the Dawn”

まさに、今の時間帯を指す言葉。結構真面目に歌詞を書いた。四十代になって、何かが変わったかというと特に変わってはいないのだけれど、人生の先輩方に色々と伺うと、総じて返って来るのは(振り返ってみれば)いろんな責任がのしかかってきてキツイ時期だったなぁ。。ということだ。自分的にも、これからの行き先を模索するように書いた曲だ。

でも”夜明け前”という言葉がずっと好きだ。何かをやろうと決めた時。その先に過酷な灼熱の太陽が待っているとしても、夜明けにはいつも胸躍るものがある。幾つになっても、残り時間が少なくなっても、りんごの木を植える人でいたいものだ。

 

というわけで、まだまだ曲を創り続けると思うのです。今はまだ通過点として。そんな心意気で。まずは明日2018年9月1日。ニューアルバムを片手に、新横浜ベルズで待っています。

 

[リーダー亙のライナーノーツ・リリース編 終わり]


8月29日(水)

第12回 一石を投ず

 

 短い夏休み。列車を乗り継いで旅に出た。

田園風景と山並みを眺めながら、昔の人の夏休みはどんなだっただろうと考える。なんとなく想像するのはジブリ映画の「風立ちぬ」の軽井沢みたいな感じ。何か急用があっても電報で知らせる世の中だったら、随分と頭も休まるんだろうなあと思う。今はゆったりと電車に乗っていても、いろんな連絡がスマホにどんどん入って来る。返信すればまた返信を余儀なくされる(笑)とうわけで、便利だけど休まらないご時世だ。電車の窓からいろんなものを投げ捨てたい。

東京に戻り、仕事を再開。9月から始まるレコ発ツアーに、一つライブが加わりました。最近、僕がギターを教えている急成長中のアイドル・ギターデュオ”栗もえか”とビードローズのジョイントライブ。同じくギター急成長中の愛来さんも入ってくれて、豪華な1日となりそう。アイドルといっても、もはやアイドルの枠を超えた歌の良さとギターの腕前を誇ります。いろんな曲でコラボしようと思っているので、9月15日(土)お台場 フジテレビ 1階 フジテレビモール内、マルチシアターにお越しください。なんと入場無料。もちろん、NEW ALBUM “SUNSHINE”も持って行きます。若い感性と真っ向勝負で、挑みます。決して、年上目線で学校の先生のように見ているわけではなく、同じフィールドの同志として接している感じ。実際、彼女たちとライブをやるたびに、いろんな影響を受けます。それこそが彼女たちがすでにミュージシャンである証かな。

 

さて、ほとんどの曲を試聴にてアップしましたが、本日は「一石を投ず」。

タッチとしてはちょっと60年代っぽい感じのギターアレンジな曲ですが、歌詞はなんとなく古くさい感じになってます。本来ならば「一石を投ずる」ということになるのだろうけど、タイトルは「一石を投ず」。

水たまりでも海でも湖でも、一つ小石を投げることで何かが変わっていく。映っている空は色を変え形を変え、それを見る瞳の中にも新しい風が吹く。

タイトルを「一石を投ず」にしようとした時、周りからは軽く疑問の声が上がったのだけれど、西広ショータくんだけは「素晴らしいタイトルだ!」と、激しく同意してくれました(笑)なんかちょっと嬉しかった。

ベースは最近ライブにも参加してもらってる、臼井雄飛”Chama”くん。良い感じに良い場所でグイッと演奏を持ち上げてくれます。

いよいよ発売日が近くなって来た。

9/1、生演奏をぜひ聴きに来てください。

 

ビードローズ ニューアルバム “SUNSHINE” レコ発ワンマンライブ!

 

2018年9月1日(土)

新横浜ベルズ

http://shinyokobells.jp

 

Support Bass : 臼井雄飛"Chama"

 

Open : 18:30 / Start : 19:00

ticket : 3,000yen (+1drink order)

 

9/1 レコ発ワンマンの会場でニューアルバム"SUNSHINE"をご購入いただいた方全員に、「October Weekend Live Ver (Special Guest : 染谷俊)」が収録されたCDRをプレゼント!

 

 

 

TIGETホームページでのご予約

 

https://tiget.net/events/32306

 


8月23日(木)

第11回 夢の続き

 

key あつこが歌う曲をアルバムに入れたらどうか?と言う声は随分と前からあった。「小さな愛」みたいに、半分メインボーカルをとる曲は今までにもあったけど、フルで歌う曲は無かった。

2017年、月に一回ワンマンライブをやらせてもらった新横浜ベルズの社長・K山さんの強い後押しもあって、今回、12曲作った新曲の中から1曲を減らして、あつこが歌う曲を入れることにした。ただ、レコーディングが始まっても、なかなか本人が曲を書いて来ない(笑)。であるならばと、リーダーは外堀から埋めていくことにしたのである。

とあるスタジオで、榊いずみさんのライブリハーサルが行われていたとき、(あつこもキーボードでそのライブに参加していた)榊いずみさんに、「あつこの曲をプロデュースしてもらえませんか?」とお願いしてみたのである。その場で快諾が。そして、同じくライブに参加していたベースの金戸覚さんにも、その場で「ベースを弾いてもらえませんか?」とお願いしたらこれまた快諾。トントン拍子に話は進み、あとは曲を待つのみとなった。こんな布陣でレコーディングできる環境はなかなか無い。はっきり言って羨ましい。しばらくしてあつこは「夢の続き」という曲を書いて来た。とても良い曲だった。

いずみさんのプロデュースのもと、アレンジの原型はリーダー亙が作り、レコーディングでは金戸さんと、メンバー全員でせーので録音した。金戸さんのベースラインが良いところにグイグイと入ってきた。まだ演奏の荒さが残るテイク2がとても良くて、最終的にそれが採用になった。エンジニアの大島久明さんがとても太い音でドラムとベースを録音してくれて、それが土台となった。

歌詞とボーカルに関して、いずみさんはとても細かく考察していて、歌い方や言葉の一つ一つ、あつこに伝えていた。あつこも一人のアーティストとして曲に向かい合っていた。二人の会話はとてもクリエイティブだった。

ミックスに関しても、細かい部分まで何度もいずみさんとやり取りをして、完成。他の曲とはまた違ったテイストが光る1曲になった。

 

素晴らしいプロデューサーの外からの視点が、バンドの新しい内側の世界を開く。マジックのような、素敵な瞬間だった。

 


8月22日(水)

第11回 半径5M

 

流さんからメールが来て、NHK-FMの小林克也の特別番組が面白かった、再放送があるみたいだから聴いてみてと、書いてあった。

ゲストは山下達郎。ディスコミュージックについて語る回だったのだが、9割は別の話題。今の音楽を取り巻く状況や、達郎さんの音楽観、そして音楽活動に対しての想いなんかが話されていて、とても面白かった。(小林克也さんくらい、突っ込んだ質問ができる人の番組は、答える方も本気になっていて面白い。)

昔はレコード盤一枚に宇宙が詰まっていて、とにかくみんなそれに夢中になったのだけれど、現在、音楽は無料(タダ)で聴けるものになってしまった。人々はCDに使うお金をスマホに使う。結果、ミュージシャンは原点回帰してライブと物販(マーチャンダイズ)で稼ぐしか方法がなくなった。(原点回帰とも言う。ある意味、健全。)

そんな中、達郎さんは全国各地、人が集まりにくい山形や秋田でもライブをする。

「シンガーソングライターは自分の存在と不可分」という言葉が印象的だった。

 

自分もシンガーソングライターの端くれとして、自分で感じたことを歌にしている。「半径5M」では、”何度でも歌うだけさ”と歌った。友達に愚痴を言うみたいな、独り言を言ってるみたいな、ただそれだけの歌である。でも、そう言う歌が好きだったりする。

 

この曲のベースは隅倉弘至さん。絶対この曲には隅さんのベースが良いなあと思っていた。気楽に聴いて欲しいな。

 


8月21日(火)

第10回 円周率

毎日更新するといいながら、四日間も間が空いてしまった。すみません。

最近はグッズのやりとり、発注などなど、レーベル業務とマネージメント業務、マーチャンダイズ業務が重なって、その中で9/1 新横浜ベルズのワンマンに向けての3人でのリハーサルもやっていました。セットリストも決まり、ようやく形になって来たので、次回からはサポートベースの臼井雄飛”Chama”くんも入ってのリハーサルになる。3人でやっていてアンサンブルに迷った時は、「たぶんChamaくんが入るから大丈夫だろう」みたいなところで落ち着いてる(笑)彼のベースで音楽的に進化したライブを見せられそうです。ぜひ、来て欲しいな、新横浜。

 一昨日のことになるけれど、ららぽーと横浜のセントラルガーデンで、コアラモード.と栗もえか(愛来入り)のジョイントライブにギターで参加して来ました。夕方、ライブはスタート。最後は涼しい風が吹き抜ける中、(秋の空のよう)気持ちよく演奏。あんにゅさんと栗もえか、愛来さんのボーカルを支えるのが仕事だったけど、歌が良いと大抵何をやっても良い感じになる。歌の力って大事だなと改めて再確認。キーボードのコアラモード.小幡君も素晴らしい演奏。

帰りに、ファンの皆さんからの花束をもらった。あんまり似合わないけど実は嬉しい。今日は薔薇を一輪、仕事場に飾ってある。

 

昔から数学が苦手で、(今でも苦手だけど)数式を見ても何のことやらという感じなのだけれど、ふと、円周率のことを思い出して書いた歌がある。未だにスーパーコンピューターで計算が続けられている数字。割り切れない想いというのはずっと心に残る。好きだったものが急に手のひらからこぼれ落ちた時、力を入れていたものが離れて行った時。人間の気持ちで、きっちり割り切れるものなんてあるのだろうか。『wall.E』みたいな世界になったら計算は終わるのだろうか。


8月16日(木)

第9回 湘南にて、RAINとPAIN

 

お昼過ぎ、片瀬江ノ島駅に着く。

ものすごく風が強い日だ。江ノ島を一望するビルの7階のライブスペースから砂浜を見下ろすと、それでもたくさんの人々が波間に浮かんで、黒い砂浜に寝転んでいる。子供達はビーチボールを追いかけ、2人組の陽に焼けた茶髪短パンの若い二人は地下道の入り口で女の子をナンパして失敗している。そんな様子まで見られるこの店は虎丸座。染谷俊&西広ショータ ぶらりふたり放浪記というライブシリーズにゲストで呼んでいただいた。

染谷さんのグランドピアノとショータくんのアコギで色々な曲をゆったりと披露していく。リクエストを募集しておきながら、ほとんど自分のリクエストで進行していく(笑)。ふたりの魅力がぎゅっと詰まったライブだった。飲放題のお店ではお客さんもみんな自由に楽しんでいるように見える。夏を半ば過ぎた季節の気だるさと相まって、とても居心地の良い空間だった。

カバー曲で「涙のキッス」が歌われる。僕は一番後ろの物販の席でビールを片手にステージに背を向けて海を眺める。歌われている歌詞と目の前の海の眺めがリンクしたりしなかったり、自分の思い出が浮かんでは消えたり、とても贅沢な時間を過ごさせてもらった。

自分がステージに登ってから、染谷さんの名曲「レモンサワー」やユーミンのカバーを経て、新しいアルバムから「RAINとPAIN」を演奏させてもらった。染谷さんのピアノが心地よい。2番のAメロはショータくんが歌ってくれた。なんだかとても嬉しくなる。自分の気持ちを率直に歌った歌ではあるが、歌は一度解き放たれると二度と戻ってこない。聴いてくれている皆さんの胸に届くといいなと、じんわりと思った。

 

この曲のレコーディングの時の話をすると、吉祥寺でドラムとエレキを先に録音し、ベースは隅倉弘至さんにお願いした。

隅さんも、ベースを弾いてくださいとお願いしたら即、快諾してくれたベーシストだ。とにかく音が太くて存在感がある。音は無骨だけれども、とても繊細なタッチの人である。ヴィンテージのFender Precision BassをヴィンテージのAmpeg B-15に直結。甘い歪みと押し出し感が相まった、極上のベースサウンドだ。

 

普通ならこういう風に弾くだろうという僕らの想像をはるかに超えて来るプレイ。本当に大好きな曲に仕上がった。


8月15日(水)

第8回 夏がすぎていく

 

今日も快晴だ。

甲子園では毎日高校球児たちが熱い試合を繰り広げている。(個人的には、まだに投球制限がないことが信じられないが。)

ラジオで試合を聞いていたら、実況を女性アナウンサーがやっていた。最初戸惑ったけど、少し慣れれば、とても聞きやすく、わかりやすかった。

9月1日のワンマンへの準備も進めている。アルバム制作に関しては事務的な仕事を残しているが、これからリハーサルも始まる。

リハーサルのためにお台場へ移動。お盆期間中は都内が少し静かになって、心地よい。

日曜日はコアラモード.×栗もえかのリハーサル。セッションする曲たちを体に入れるのに必死である。

栗もえかと愛来は、初めて弾くコアラモード.の曲を、わずか1時間で把握してジャカジャカやっていた(笑)もう、彼女たちには先生というより音楽仲間として接している。コアラモード.の小幡くんの演奏は本当に素晴らしい。緩急のついた、歌いやすいピアノ。あんにゅさんの声は生で聴くと更に質感が魅力的。

というわけで、8/19 日曜日は、ららぽーと横浜へ来ることをお勧めします(笑)16時開演。観覧無料です。

明日16日は、ニューアルバム「SUNSHINE」の宣伝も兼ねて、染谷俊さんと西広ショータくんのライブにゲストで参加させてもらいます。湘南、虎丸座。飲み放題ライブらしい。恐ろしい。。けど遊びに来てください。

 

今日はニューアルバムから「アラスカ」のライブ映像を。先日、ショータくんと一緒にやったライブ。

 

 


8月14日(火)

第7回 眠れない夜に

 

ここ数日、熱帯夜ということもあるのだけれど、22時には疲れて寝てしまい、その後午前1時くらいに目が覚めて、そこから数時間眠れなくなる夜が続いている。今夜もなにやら夢を見て汗ばんで起きて、今、MacBookを開いてパタパタとこの文章を書いている。お盆ということもあってか、あたりはいつもよりしんと静まり返っている。

イヤホンからはチェットベイカーが歌う”My funny valentine”が流れている。

 

どうしても調べなくてはならないものがあって、昔使っていた携帯電話を10年ぶりに開いた。いわゆるガラケーである。電源ボタンを押すと、赤いランプがついて起ち上がった。おー、生きてる。それだけで何か胸に灯るものがある。小さな画面に映し出されたのは果たして、何年も前に死んでしまった、実家の愛犬”さくら”の写真だった。保存されている写真をのぞいてみると、フォークシンガーみたいに髪の長い自分の冴えない写真が現れた。ひとまず少し落ち込む。背景を見てみると、小淵沢でのレコーディング風景だ。それにしてもこの小さな荒い画像でも、記憶を一瞬で換気するには十分なのだなと思い知らされる。写真の強さ。

ずいぶん前に亡くなった父方の爺ちゃんは、アマチュアカメラマンだった。訪れる度にばあちゃんに内緒で買ったカメラを自慢げに見せてくれたっけ。自宅の一室を暗室に改造したりして、家族も風景も戦争も花も人も岡山城も後楽園も朝日川も。生涯に何万枚もの写真を撮った人だった。

33,4歳の頃だったか、実家に帰省した折に会いに行くと、ライカのコンパクトカメラを持ったじいちゃんが一通り僕の写真を撮った後で、

「お前、甘えのない良い顔になったなぁ」

 

と言った。社会に出て一通りいろんな角に頭をぶつけて痛い思いをした後だったので、素直に嬉しかった。そしてその人が生きて来た証は顔に現れるということを時々、じいちゃんの言葉とともに思い出す。良い顔で歳を取れているか。鏡を見ては自分に問いかける。

 

本日の一曲は、「LIFE IS」

 


8月13日(月)

第6回 恋とガラクタ 

 

外はものすごい雨と雷が続いている。時折鋭く光っては、ダイナミクスの大きい、頭蓋骨にまで響くような音で雷が落ちる。光ってから音がするまで何秒かかったか数えてしまうのは小学生の頃からの癖である。音は一秒間に約340m進むから、光ってから2秒で音がすれば、約680mの近さに雷が落ちたことになる。だんだんと近づいて来る雷に胸がドキドキしたものだ。

台風が直撃した日なんかは、透明な傘を持って外に出て、テレビのレポーターの真似をしたものだ。一人で家の間に出て、強風と雨が吹き荒れる中、「現在、私は岡山市内のxx町に来ています。ご覧ください、ものすごい雨と風で前が見えないほどです。道にもほとんど人の姿が見えません!」などと叫ぶのである。レポートしている場所は住宅街の家の前だから、普段からそんなに人通りはない。人の姿が見えないのは当たり前である。全く馬鹿なことをして遊んでいたものだ。今でもたまにやりたくなるけど。

大人になってから台風の中継で使われる岬のような場所は、台風が来ない日も風が強くて同じくらい波が高い場所なのだと教えてもらった。なんだか少しがっかりしたけど、人々がテレビの画面に望むことをテレビは忠実にやっているだけの話なのだろう。

 

アルバムと全く関係のない話になってしまったが、日立のレコーディング合宿の話の続き。

過酷になるだろうことが容易に想像される合宿にも、涼しい顔でついて来れそうなベーシストということで菅野章仁(かんのあきひと)くんが選ばれた。いや、かんちゃんに弾いてもらいたいと最初に思ってから合宿が決まったから順番が逆だ。

かんちゃんはそこにいてくれるだけで周りの空気がほっこりするという、他には得難い特性を持っている。これはスタジオに篭りきりになり、バンドメンバー間の空気の流れが著しく悪くなりがちなレコーディングには持ってこいの性格なのである

なんとなく雰囲気が悪くなったらかんちゃんに意見を聞いてみれば良いのだ。特に明確な答えが返って来ることはないが、なんとなく”ホッコリ”するので、”些細なことはまあいいか、次に進もう”という流れになるのである。

そんなかんちゃん、アルバムの中で最多の4曲、とても素晴らしい演奏を残してくれた。ドラムのコジマが作曲した「恋とガラクタ」が出来上がった時、コジマはまずかんちゃんのベースを褒めていた。結構難しいことをやっているのに、そういう風に聴こえないところが、かんちゃんが弾くベースの凄いところだろう。演奏者が出す音はその人の性格に深くコミットしているのである。

ちなみに、日立のレコーディングではベースアンプは一切鳴らさなかった。樫村先生の研究で、アンプを鳴らさなくても十分にアンプライクな太さのベースの音が録れるということだったので、一任してみることにした。改造したベースアンプのヘッドを通した音は温かみのある、とても良い音だった。アンプを鳴らすか鳴らさないかというのはベーシストによって意見が分かれるところだが、どちらも良さがある

 

 

このアルバム唯一のコジマ作曲の曲が、「恋とガラクタ」だ。コジマはポップなメロディーが好きなのだ。歌詞は割とスラスラと書けたように記憶している。


8月12日(日)

第6回 あいにきたよ

 

お台場のテレビ局の楽屋にいる。野外ライブの本番前。

今年の初めからギターを教えている(教えているというより、伝えている。という言い方が正しいかな)栗もえかの二人の現場である。乾ききったスポンジに水が消えていくように、新しいことを次々に吸収していく二人に自分が追いついていない感じ。今回一緒に出演する愛来さんもそう。この感性を忘れるな、という天からのプレゼントだと思って、一緒に音楽をやらせてもらっている。

 

昨日のお台場は、とにかくものすごい人の群れだった。

野外には特設ステージが組まれ、夜には花火が上がり、浴衣のカップルや親子連れが何かの列に並んでいる。その横を車で通り過ぎて家に帰る。こうして歩いているたくさんの人たち、それぞれに帰る家があり、物語があるんだなあと思うと気が遠くなる。こんな風景がいつまでも続くといいのになと、ふと思う。

 

帰りの車の中で、初めて”SUNSHINE”を聴く。レインボーブリッジに入ったところで、ちょうど「あいにきたよ」が流れてくる。九月の歌だけど八月の景色にも良く似合っていた。いい感じだ。とりあえず、ほっとする。車の中で聴きたくなるアルバムは無条件に良いアルバムのような気がする。

 

5月の終わり、僕らは初めてのレコーディングスタジオに向かっていた。茨城県日立市にある、Studio Chapter H[aus]だ。オーナーのレコーディングエンジニア樫村さんが全てを司っているスタジオで、ブースにはグランドピアノとドラムとアンプ類が所狭しと置かれ、コントロールルームにもモディファイ(改造)を施した録音機材が山のように積まれている。樫村さんが録る音には何かしら、一貫した芯のようなものがあり、それは彼のフィロソフィーに基づいているのは疑いようのない事実である。レコーディングエンジニアとしてはかなり個性的な部類に入る人だ。 (レコーディングエンジニアをやっている人は大概変わっている人が多いけど。 ※意見には個人差があります)

大きなスタジオだと、例えばドラムに立てたマイクからマイクの音を増幅するプリアンプと呼ばれる機械まで、何十メートルもケーブルを引き回している。

微弱なマイクの信号をアナログのケーブルで長く伸ばすと、ノイズも乗りやすくなり、音が細くなる。樫村さんはブースにプリアンプを山積みにして、マイクから最短距離で信号を増幅しているのだ。(興味無い方すみません)”その場所で聞こえている音そのままを録音する”というのが氏の信条だ。機材の改造具合もなかなかぶっ飛んでいる。一流の超高価な機材よりも、その下のランクの(有名ではないけれどもしっかりとした)機材を改造して、ハンダを付け直したりケーブルを専用のものに作り替えたりして、一流と肩を並べる良いものにするという作業を日々コツコツとやっているのである。僕は自分の中でこのスタジオを「樫村音響技術研究所」と勝手に名付けた。

今回のアルバムはピアノをほぼ全曲この研究所で録音したが、(「夢の続き」以外)余計なピークが全くない、素晴らしい鳴りであった。

もしあなたがここを訪れることがあったら、樫村さんに「尖っているけど優しい音が欲しい」みたいな、謎のリクエストをしてみることをお勧めする。

きっと、「わかりました」と即答して、部屋の奥からゴソゴソとマイクを取り出し、改造プリアンプと組み合わせ、最上級の味を提供してくれるに違いない。まさに”音のソムリエ”である。

ただ、所長は(次々と名前を変えているが)自分の好きな音楽以外はやらないと言う強い信条があるので、まずは電話してみたほうが良いと思う。

えーっと、かなり話が逸れたが、日立で3日間、かなり濃い日々を過ごした。近くに美味しい弁当屋さんとレストランがあるのが救いだった。あと、太平洋が一望できる素晴らしいスーパー銭湯。ミルフィーユとんかつ弁当美味しかったな。

 

 

話が逸れたが、「あいにきたよ」は、ドラム、ベース、アコースティックギター、ピアノ、そしてボーカル。楽曲の中心となる楽器が日立で録音された曲である。

 


8月11日(土)

第5回 空想の中で

 

音楽というものを生活の中でどのように位置付けるか。

水や塩や食料と同じではない。無くても生きていけるものだけれど、僕は音楽がなかったらおそらく(まともには)生きていけないだろう。見えない何かにきっと押しつぶされて、自分が自分でいられる術を失ってしまうことは容易に想像がつく。

精神的に疲れ切っている時、人は自分が疲れていることさえも自覚できなくなる。例えば、目覚めの悪い朝。あ、これはちょっとやばいなと、体の奥から警告が発せられた時、僕は目を閉じて、あるいはどこか一点を見ることもなく見つめて、音楽を聴く。閉め切った部屋に、どこからか風が吹いてくる。胸のつかえが少しずつほぐれていく。

こうやって水のように、音楽は人を救うことができるということを僕は信じている。それだからこそ、音楽を続けているのだろう。

音楽が奏でられる場所はたくさんある。どこにいても、自分を見失わないようにするには、僕はギターを弾き続け、歌を歌い続ける必要があった。ただそれだけのことだと、最近気がついた。

 

音楽はその旋律と少しの言葉で世界中を旅することができる。想像力という可能性を使って。

例えば、誰もいない深夜の空港に主人公の二人を置いてみる。実際には深夜の空港にも誰かがいるのだろうけど、この曲の中では誰もいない。誰がなんと言おうと、彼と彼女は二人きりなのである。曲が終わるまでの間、僕はその主人公になることもできる。彼が感じている、苦しいほどの切なさを感じることもできる。もしくはその映像をただ映画のように傍観する観客になることもできる。

 

全てはイマジンの世界だ。イマジンを忘れずにいたい。


8月10日(金)

第4回 October Weekend

 

今朝は6時に起きた。(正確に言うと起こされた)

東京。また夏の青い空が広がっている。朝食を作り、また新しい一日が始まる。

2017年、12回のワンマンライブで一曲ずつ新曲を作った。全12曲。そして、あつこが歌う新曲を、新たに1曲。全部で13曲。アルバムの収録曲は全12曲…。ということは、一曲、アルバムからこぼれてしまっていることになる。(回りくどいけど)

アルバムに入ることができなかった曲、それが、10月に発表した、「October Weekend」である。2017年10月のライブは昼の公演がビードローズ月イチワンマン(ゲスト:染谷俊)、夜の公演が染谷俊ワンマンライブ(ゲスト:ビードローズ)という、とても体力のいるスペシャルな一日だった。そこで染谷さんとセッションしたのがこの曲。とても思い出深いし、何人かのファンの方から、なぜ「October Weekend」がニューアルバムに入っていないのか!と、お叱りを受けた。ここで謝ります、どうもすみません。色々と事情がありまして。。。

代わりと言ってはなんですが、9/1の新横浜ベルズでのワンマンライブ会場でアルバムを購入してくれた方にプレゼントする購入特典CDRは、「October Weekend」のライブバージョンを収録することにしました。もちろん、染谷さんとのセッションの音源。後半、かなり染谷さんがドリフ的にふざけちゃってますが、これもまた面白いので、そのまま収録。この日、会場で購入した方しかもらえません。

9/1、レコ発ワンマン。予約受付中です。迷っている方も、ぜひ来てください。

 

閑話休題。

 

4月の終わりから始まったレコーディング。態勢を整えつつ、スケジュールを組んで行った。なにせ、メンバー、サポートベーシストの方々、レコーディングエンジニア、スタジオ、etc…全員の時間の隙間を縫って録音していかなければならない。

5月、豪徳寺にあるスタジオで、ダビング作業。この日はベースのスティング宮本さんが来てくれた。あっという間に、素晴らしいテイクを残して去って行った…という印象。ビューティフル・ルーザーではグイグイと引っ張る音を。「アラスカ」ではフレットレスで優しく支えつつ、印象を決定づける音を。楽曲の理解度、引き出しの多さ、音の良さ、タイミング、リズム、グルーヴ、全てが素晴らしかった。”ベースだけずっと聴いていられる”…とは、あつこの弁。(笑)

 

 

今日は、レコーディングの様子を、少しだけ。だいぶマニアックだけど。

 


8月9日(木)

第3回  生まれた街を遠く離れて

 

時折、激しい雨が窓を叩いている。台風が来ている。

予想された進路よりも少し外れて、どうやら上陸は免れたらしい。雨が止むと、また静かな深夜の時間に戻る。

ここ最近はリリースに向けてこうやって文章を書いたり、いろんな書類の手続きをしたり(これを雑務と呼ぶのだろうか?)音楽以外のところで色々と忙しい。前回、前々回は宣伝や販売を外部にお願いしたのだけれど、今回はまた原点に戻ったというわけである。元々が家内制手工業なバンドであるので、渉外、広報、などなどたくさん担当しているのだ。ちなみに例えるならば、あつこは経理でコジマは機材車のドライバーである。3人しかいない会社だと考えると、なかなかに楽しい現場である(笑)

さて、話は4月のレコーディングに戻る。2日間、吉祥寺のSTUDIO GOATEEにてセッション。2日目に、スティング宮本さんから紹介してもらったベーシスト、臼井雄飛”Chama”くんが来てくれた。若干31歳。岐阜県出身。アメリカのバークリー音楽院で理論を学び、日本に帰って来てから"スティング宮本ベーススクール"でロックの魂を学んだという、面白い経歴の持ち主である。(ベーシストって多かれ少なかれちょっと変わった性質を持った人が多い、ような気がする※意見には個人差があります)

スタジオで初めて会って、すぐにレコーディング。予想以上に素晴らしいプレイと優しい性格で、僕らは彼のことをいっぺんに好きになった。

この日は3曲弾いてもらったのだけれど、5弦ベースで複雑な動きをずっとループで繰り返すという難易度の高い曲「生まれた街を遠く離れて」はChamaくんのおかげでとても良いグルーヴが出た。

話は飛ぶけど、北海道が好きだ。冬が長く厳しい土地に暮らす人々の優しさと笑顔が好きだ。厳しさを知っているから、旅人に優しい。(いつも甘えてばかりですみません。)僕はおそらく北海道に住むことは難しいだろうけど(寒すぎるから)いつだって北の大地に憧れている。十勝、札幌、函館、アラスカ、フェアバンクス、アイスランド、アイルランド。

都会に暮らしている時も、今、同じ時間に大きな鯨が海を泳いでいると想像すると、心が広くなると、星野道夫さんが言ってた。

 

僕は北の星を見上げる人たちを想像しながら、北海道に暮らす音楽仲間や畑を毎日耕している人のことを想ってこの曲を書いたのだった。

 


2018年8月8日(水)

第2回 Beautiful Loser

 

ビューティフル・ルーザーという言葉に憧れた。

“美しき敗者”。

やるだけやって、最終的に負けたとしても構わない。自分には勝った、と、最後には言いたい。だんだんそんな風に考えるようになった。

そんな風なことを歌にしようと思い立って、新曲を作り続けた2017年、最初にできたのがこの曲だった。

完成してから、歌詞を改めて読んでみると(結果的に考えるとだけれど)アルバム制作直前に脱退したBassスグルへの歌みたいだった。こっちも頑張るから、そっちも頑張れよな、みたいな。でもこれは当たり前だけれど、後付けの超個人的な解釈。それぞれの日々に響いてくれるといいなぁ。

4月27日、レコーディング初日。まずはメンバーの3人で、ベースレスで曲の骨格を録音。ベースは、最初からスティング宮本さんにお願いしようと決めていた。

グイグイと押しの強い、唯一無二のベースが欲しかったから。そしてそれは予想以上に素晴らしいプレイだった。

 

試聴ファイル、貼っておきます。途中までだから、楽しみにしている人は9/1のワンマンで手に入れてから聴いてね。

 

 

それから、レコ発ツアー。10月のスケジュールが発表されました。関西地方の方、ぜひ日程を空けておいてください。

 


2018年8月7日(火)

第1回  はじまりの日。

 

40歳になった。ドラえもんでいうところの、のび太くんと同じ誕生日だ。

誕生日だからというわけではないのだけれど、準備を続けてきたニューアルバム“SUNSHINE”の特設サイトをこの日にオープンすることにしました。

これから9月1日の新横浜ベルズでのワンマンに向けて、毎日少しずつ更新していこうと思っています。(できれば毎日のぞいてください)

 

まず、このアルバムの成り立ちから話していかなければと思います。

2017年、ビードローズは新横浜ベルズで月イチでワンマンをやるという暴挙に出ました。ベルズの社長であるK山さんが僕らの音楽をとても気に入ってくれて、月イチでワンマンをやっていこうと提案してくれたのです。かなり無謀なことのように思えたのだけれど、(まずもってバンドメンバーのスケジュールを合わせるだけでも至難の技だった)やると決めたからにはやらなければならない。毎月、違う趣向を凝らして、一つずつ、ライブを拵えて行きました。

(作っていったというより、拵えたという方がなんとなく合うような気がする)

毎月1曲、新曲を作ることも必須条件に加えた。(これで後々かなり苦労することになるのだが…)

それこそ、先輩から後輩、スタッフの皆さま、いろんな方々の力を借り、迷惑をかけまくって、なんとか一年間やり終えた。

 

結果的には、一年間終わった時には文字通り、12曲の新曲が出来上がっていた。

これは一つの財産である。

じゃあアルバム作るべという流れになるのは至極当然のことに思える。ミーティングを開き、バンドは12曲入りのアルバムを作ることになった。

だが、このタイミングでバンド内では色々な問題が渦を巻いていた。(鳴門のそれのように)普段はそれぞれ自分の生活があるわけで、まずもってレコーディングに当てていく時間が全く合わない、足りない。もう八方塞がりの状態だった。それぞれの人生を歩いていく上で、なんとか寄り添ってきたのだけれど、(これもまたいくつかの決定的な理由で)Bassの斉藤スグルが脱退することになった。

全員かなり悩んだし、それでも前をむくためには一度別れなければならない時もある。

問題は、この時点で、すでに最初のレコーディングスタジオを押さえてしまっていたことだ。後にはひけない。

そしてバンドは、今回のアルバムは好きなベーシストを呼んで、新しいビードローズの姿を作ろうと考えたのだった。

好きなベーシストの皆さんに恐る恐る声をかけたら、(こういう時は、”聞くのはタダ、聞くのはタダ…”と、呪文のように唱えながら恐る恐る声をかけさせてもらうのだけど)

皆さん、二つ返事で快くOKをしてくれたのだった。これには本当に感動した。スティング宮本さんに至っては、ベーシスト探しまでやってくれたのである。持つべきものは素晴らしい先輩である。

 

2018年4月下旬。僕らは最初のレコーディングに突入していくのであった。

(続く)

 

※明日は視聴ファイルも用意しておこうと思います。